感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社

2003060008

司馬遼太郎 街道をゆく 1 甲州街道、長州路ほか 1971 日本 朝日文庫

評者:発起人    評価:9    読了日:2003/06/13    公開日:2003/06/14

「日本人の祖形」を救い出すための旅

 

  作者は、この文庫版で43冊にも及ぶ『街道をゆく』シリーズの最初に「湖西のみち」(琵琶湖西岸)を選んだ。その中で「この連載は、道を歩きながらひょっとして日本人の祖形のようなものが嗅げるならばというかぼそい期待をもちながら歩いている。」(p21)とこのシリーズの眼目について述べている。(このシリーズは『週刊朝日』に連載されていた。)

 もちろん司馬遼太郎のことであるから、街道をゆきながらも、その筆運びは自由自在である。このシリーズの第1巻(ちなみに取り上げられているのは「湖西のみち」「竹内街道」「甲州街道」「葛城みち」「長州路」の5「街道」)を読んだ限りで、私が感じた著者の視線のいくつかをご紹介したい。

@ 単一民族神話への反証

 古代の大和朝廷が成立する前に、各所に存在した独自の信仰や文化を持った氏族(葛城やカモ族)の跡を、そしてその後も度々「渡来人」が日本に与えた影響を司馬遼太郎は見出そうとする。これは2003年になっても日本人が払拭しきれていない排外主義の根底にあると思われる「単一民族神話」という明治維新後のイデオロギーに対する作者の反証になっている。(古代史専門家の間では常識なのかもしれないが・・・)

A 商業・貿易への憧憬

 大阪の生まれであるせいか、司馬遼太郎は交易・商業の重要性を高く評価する。徳川幕府が農民の感性で鎖国を行ったことに対する著者の言及や、明治維新を推し進めた薩摩・長州などと貿易との関わりなど随所に農耕ではなく交易を重視する視線が見られる。

B 歴史・景観破壊への怒り

 建売住宅や道路建設が日本の昔ながらの景観や遺跡を破壊しているということへの憤懣が随所に見られる。また、明治維新後の廃仏毀釈や古い地名の廃棄など歴史の痕跡を書き直す(消す)行為にも司馬遼太郎は批判的だ。

 もちろん、本書は論文では無く、いわば日本人の失われた時を探す文学であるから、読者はいろいろな楽しみ方や受け取り方ができるだろうと思う。しばらくはこの『街道をゆく』シリーズも読んでみたい。


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